おばあさんはご飯を残していた

今日は金曜日。予定は特になく、仕事もスムーズに終了。歩いて帰りながら、今夜のご飯はどうしようかと考えていた。メニューは突然に決まった。どうしても麻婆豆腐が食べたい。麻婆豆腐が食べたい。近所にある美味しい中華料理のお店で食べて帰ることに決めた。

 

その店は割と狭く、テーブル席が2つとL字型のカウンター席のみ。テーブルはすでに埋まっており、カウンター席も両端は埋まっていた。わたしは左隣を1席、右隣を2席空け、座った。L字型の角にあたる部分だ。残りの空席はその3席のみだった。

 

麻婆豆腐と半チャーハンを注文し、しばらくすると3人組が来店した。70代半ばと思われる老夫婦と40代と思われるその息子。詰めて座りますね、と声をかけると、おばあさんはわたしの肩をバシバシと叩きながら「いいのよいいのよ!離れて食べたいから大丈夫よ!いいのよ!」と満面の笑み。息子は2席空いた方の奥に座り、おばあさんは1席空いた方に座った。しかしおじいさんがなかなか座らず、やっぱり詰めますよ!と席を立ちかけるとおばあさんに肩を押さえられ「座って座って!あなた優しいのねぇ!」とそのままバシバシ叩かれた。ニコニコしている。関西っぽさ全開のおばあさんだ。おじいさんも、空いた残りの席に座った。左におばあさん、右におじいさん。これからわたしは老夫婦に挟まれて麻婆豆腐を食べるんだ。

 

まあいいか、と思いしばらくすると先に麻婆豆腐だけが来た。とりあえず食べていると、おばあさんの元に麻婆豆腐定食が運ばれてきた。おばあさんの動きが視界に入る。キョロキョロとしていたが、腑に落ちない感じで止まり、定食についていたスプーンで食べ始めた。ああ、と思い箸を取ってあげて渡すと「あらー!なんで分かったのー!あなた優しいのねぇ!ここはやっぱ麻婆豆腐が最高よね!」と肩をまたバシバシと叩く。麻婆豆腐は始めて食べた。有名だったのか。美味しいですね、と笑うと、今度は右からおじいさんが「あなたは麻婆豆腐だけか!」と声をかけてきた。おじいさん、喋るんだ。半チャーハンを頼んだことを伝えると「そりゃいい!」と。その直後、半チャーハンも届いたのだが、半の要素はどこへ?と思いたくなるほどの量のチャーハンが来た。おじいさんは親指を立て「腹いっぱい食べれるなあ!」と笑顔。もりもり食べます、と伝え、黙々と食べていた。

 

しばらくして、おばあさんは先に食べ終えたようで「またね!ありがとうね!」と肩を叩いて帰っていった。近所に住む常連さんなのだろう。その後も黙々と食べるが本当に量が多い。もう残そうかな、と考えているとレバニラ定食を食べながらおじいさんがまた話しかけて来た。

 

「あなたは元気な子どもを産みます!」

 

確かに今日はゆったりしたワンピースを着ているが、お腹が目立っているようには思わなかった。なんにせよ間違えられたのであればショックだ。とりあえず、違うと言うのも面倒なので、ありがとうございます、と伝えまた食ベ始めた。

 

残して帰るか!と思った矢先、また話しかけてきた。「近ごろは子供が親を殴ったり親が子供を殴ったりするでしょう。」あぁ、やばい面倒なやつだ。「そういうのはね、女性がきちんと食事を摂らないからだ!ダイエットだなんだ言って!食べないからだ!」とりあえず、そうなんですかね、と言っておいた。「あなたはしっかり食べている。食べてくれ!」こんなことを言われると残しづらい。残して帰るか、と思ったところなのに。面倒な絡み方をされても困るので、とりあえず返事もそこそこに一生懸命食べ続け完食。一応おじいさんに会釈をして帰った。

 

色々と複雑な気持ちの金曜の夜になってしまった。深読み。

 

コイケでした。