【先輩】涙が出るほどに怖かった思い出

新卒で入った会社には約4年半勤めた。その会社は、当時はそこまで積極的な新卒採用は行われておらず、特にわたしの部署はあまり新人が入ってくることはなかったため、ずっといちばん下っ端のまま4年半を過ごした。割と可愛がってもらっていたと思う。

 

その4年半の間に、他の部署には新人が入ってくることがあった。なのでまあ、後輩世代は何人かいた。

 

その中に、とても元気で一生懸命な感じの女の子がいた。女性の社員が多くなかったため、部署は違ったが慕ってくれている様子で、実際他の社員さんから「仲良くなりたいって言ってたよ」みたいなことを聞くこともあった。もちろん、仲良くなりたいと言われて悪い気はしない。後輩もいなかったし、わたしが先輩かあ〜と、嬉し恥ずかしみたいな気持ちもあったと思う。彼女とは仕事の絡みはあまりなかったので、一緒に飲みに行ったりするくらいだった。話してみてもやっぱりとても真面目でまっすぐで、エネルギッシュで一生懸命な子だった。あまり自分の周りにはいないタイプの子で、少しどんな風に接したらいいのか分からない部分もあったのだが、持ち前の八方美人スキルを駆使しながらなんとか楽しく過ごしていたと思う。

 

ある日、飲みの席で彼女から、(名前)ちゃんって呼んでもいいですか?と言われた。そこそこに酔っていたのと、改めてそんなことを聞かれたことなんてなかったので思わず、いいよ〜と言ってしまっていた。

 

いやいや、全然良くない。え…呼ばれるのかな…。会社で呼ばれたら困るな…。なんて思いながらヒヤヒヤしていたが、元々そこまで仕事の絡みはなかったこともあってか、特に呼ばれることはなかった。そのころからだろう、彼女からの謎のプレッシャーを強く感じるようになっていた。まっすぐでパワー満点の仲良くしたいオーラを発し続ける彼女に応えてあげられないからなのか、モヤモヤした気持ちをどこかに抱えながら過ごしていた。なんせわたしの器は手のひらサイズだ、受け止めようったって、相手は指の隙間からどんどんとこぼれ落ちていくほどのパワーをぶつけてくるのだから無茶な話だ。

 

ある日、仲の良い同期と上司と飲みに行った。お酒も進んで酔ったわたしは、なんとそこで泣いた。なんか怖いんですぅぅとかなんとか言いながら。同期も上司も爆笑だったがこちらとしては深刻な問題で、お酒の勢いも手伝ってくれたからこそ言えたことだったんだと思う。そのとき改めて、彼女の求めているような「プライベートでも仲良しな先輩」にはなれないとそれはそれは強く自覚した。

 

それからはなぜか、わたしの気持ちを察したかのように彼女と絡む機会はピタッと減って、わたしが会社を辞めるころにはほとんど話すこともなくなっていた。なんだったのだろう。

 

きっと、彼女にとっても若干の黒歴史だろう。社会人1年目で少しはしゃいでしまった的な。まあ、涙が出るほどなにが怖かったのか、具体的には分からない。今となってはわたしもバカだったなあと思う。不器用すぎて恥ずかしい。もっとしてあげられることもあっただろうに。わたしも少しばかり歳を重ねて、前よりは器のサイズも大きくなっているはず。また会うことがあれば楽しく話ができればいいな。

 

コイケでした。